製造業において、製品の品質、性能、コスト、そして納期は、使用する材料に大きく依存します。資材担当者は、設計要件、加工性、調達コスト、そして供給安定性など、多岐にわたる要素を考慮しながら、最適な材料を選定する必要があります。
こちらのコラムでは、製造現場で頻繁に用いられるステンレス鋼と鉄鋼材料に焦点を当て、それぞれの特性、種類、加工技術、そして選定のポイントを、専門的な視点から詳細に解説します。資材担当者にとって、材料選定における意思決定を支援する、実践的な情報提供を目指します。
ステンレス鋼

ステンレス鋼は、鉄を主成分とし、クロムを10.5%以上含む合金鋼です。クロムが空気中の酸素と反応することで表面に不動態皮膜と呼ばれる緻密な酸化クロムの層を形成し、これが優れた耐食性をもたらします。
ステンレス鋼の特性と選定における重要性
耐食性
ステンレス鋼の最大の特徴は、優れた耐食性です。不動態皮膜は、酸、アルカリ、塩化物など、様々な腐食環境から鋼材を保護します。これは、腐食による製品寿命の低下を防ぎ、メンテナンスコストを削減する上で重要な要素となります。使用環境の腐食性を評価し、適切な耐食性を有する鋼種を選定します。例えば、塩化物環境では、モリブデンを添加したSUS316などの耐孔食性に優れた鋼種が適しています。
強度
ステンレス鋼は、鉄鋼材料と比較して高い強度を有しています。特に、マルテンサイト系ステンレス鋼は、熱処理によって硬度を高めることができ、高い強度が要求される用途に適しています。製品に必要な強度、耐力、靭性などを考慮し、適切な鋼種と熱処理条件を選定します。
加工性
ステンレス鋼の加工性は、鋼種によって異なります。オーステナイト系ステンレス鋼は冷間加工性に優れ、フェライト系ステンレス鋼は熱間加工性に優れています。製品形状や加工方法 (プレス加工、曲げ加工、溶接など) に合わせて、加工性の良い鋼種を選定します。
耐熱性
ステンレス鋼は、高温環境下でも優れた耐食性と強度を維持します。特に、フェライト系ステンレス鋼は、高い耐熱性を有しています。使用温度、酸化雰囲気、クリープ特性などを考慮し、適切な鋼種を選定します。
低温特性
オーステナイト系ステンレス鋼は、極低温環境下でも靭性を維持し、脆化しにくいという特徴があります。極低温環境で使用される製品には、オーステナイト系ステンレス鋼を選定します
磁性
オーステナイト系ステンレス鋼は非磁性ですが、フェライト系ステンレス鋼やマルテンサイト系ステンレス鋼は磁性を有しています。磁性が必要な場合は、フェライト系またはマルテンサイト系ステンレス鋼を選定します。磁気が問題となる場合は、オーステナイト系ステンレス鋼を選定します。
美観
ステンレス鋼は、銀白色の美しい光沢を有しており、装飾用途にも適しています。製品の外観品質が重要な場合は、表面仕上げ (鏡面仕上げ、ヘアライン仕上げなど) を指定します
ステンレス鋼の種類と資材調達
ステンレス鋼は、化学組成や結晶構造によって、大きく以下の5つの種類に分類されます。
ステンレス鋼は、化学組成や結晶構造によって、大きく以下の5つの種類に分類されます。
・オーステナイト系ステンレス鋼
クロム (18%以上) とニッケル (8%以上) を主要な合金元素として含みます。非磁性で、優れた耐食性、加工性、溶接性を有しており、最も広く使用されている鋼種です。SUS304、SUS316などが代表的な鋼種です。
・フェライト系ステンレス鋼
クロム (10.5~27%) を主要な合金元素として含みます。磁性があり、オーステナイト系に比べて耐食性はやや劣りますが、価格が安く、良好な耐応力腐食割れ性を示します。SUS430などが代表的な鋼種です。
・マルテンサイト系ステンレス鋼
クロム (11.5~18%) を主要な合金元素として含みます。磁性があり、熱処理によって硬化させることができます。高い強度と耐摩耗性を有しており、刃物や工具などに使用されます。SUS410、SUS420などが代表的な鋼種です。
・二相系ステンレス鋼
オーステナイト相とフェライト相の両方を有するステンレス鋼です。オーステナイト系とフェライト系の特性を併せ持ち、優れた耐食性と強度を有しています。SUS329J1などが代表的な鋼種です。
・析出硬化系ステンレス鋼
銅、アルミニウム、チタンなどを添加し、時効硬化処理によって高強度化させたステンレス鋼です。SUS630などが代表的な鋼種です。
鉄鋼材

鉄の基本特性と種類
鉄鋼材料は、炭素含有量や添加元素の種類によって、多様な特性を持つため、幅広い用途に使用されています
鉄鋼材料の種類と特徴
・炭素鋼
炭素を主要な合金元素として含む鋼です。炭素含有量によって、低炭素鋼 (0.25%以下)、中炭素鋼 (0.25~0.60%)、高炭素鋼 (0.60%以上) に分類されます。
・合金鋼
炭素に加えて、ニッケル、クロム、モリブデンなどの合金元素を添加した鋼です。添加元素によって、強度、耐食性、耐熱性などの特性を向上させることができます。
・鋳鉄
炭素含有量が2%以上の鉄です。鋳造性に優れており、複雑な形状の部品を製造することができます。
鉄鋼材料の加工技術
鉄鋼材料は、様々な加工技術に対応しています。
- 切削加工: 旋盤、フライス盤、ボール盤など
- 塑性加工: 鍛造、圧延、引抜き、プレス加工など
- 溶接: アーク溶接、抵抗溶接、レーザー溶接など
- 熱処理: 焼入れ、焼戻し、焼なましなど
- 表面処理: 塗装、めっきなど
ステンレス鋼と鉄鋼材料の選定基準
特性の違い
ステンレス鋼と鉄鋼材料のどちらを選定するかは、以下の要素を総合的に判断する必要があります。
- 要求性能: 強度、耐食性、耐熱性、加工性など
- 使用環境: 温度、湿度、腐食性雰囲気など
- コスト: 材料費、加工費、メンテナンス費など
- 供給安定性: 材料の入手性、納期など