高強度化が進む現代において、一般的に板厚6mm以上とされている厚板を用いた製品開発は、多くの産業分野で不可欠となっています。しかし、厚板の切断加工は、材料特性や加工方法の選定を誤ると、割れ、歪み、寸法精度不良といった問題を引き起こし、コスト増や納期遅延に繋がりかねません。こちらのコラムでは、鋼材商社として70年以上のお客様の材料調達を行ってきた当社だからこその長年の経験に基づいた専門知識を駆使し、設計担当者・購買担当者の方々が抱える課題解決に繋がるよう、厚板切断における最適化戦略を、素材選びから加工方法、そして安全対策まで、詳細に解説します。
厚板の種類と特性
厚板に用いられる材料は多様で、それぞれの特性を理解した上で切断方法を選択する必要があります。代表的な材料と、それぞれの切断方法の適合性について解説します。
炭素鋼
コストパフォーマンスに優れる汎用鋼材です。JIS規格では、SS400, SM490Aなど、引張強さや降伏点で様々なグレードが定義されています。高強度鋼材の場合、切断時の熱影響による割れや変形に注意が必要となります。切断方法は、レーザー切断、プラズマ切断、ウォータージェット切断、機械切断など多岐に渡り、材料の強度や厚さ、精度要求に応じて最適な方法を選択する必要があります。特に高張力鋼の場合、熱影響によるマルテンサイト変態を抑制するため、低速切断や冷却機構を備えた設備の選定が重要になります。
合金鋼
高強度、高靭性、耐摩耗性、耐熱性などが求められる用途に用いられます。クロム、モリブデン、ニッケルなどの合金元素の添加により、炭素鋼よりもはるかに複雑な組織と特性を示します。切断時の熱影響を受けやすく、割れや変形が発生しやすい傾向があるため、ウォータージェット切断やワイヤ放電加工(ワイヤEDM)が適しています。また、切断後の熱処理が必要な場合もあります。特殊合金鋼の中には、切削抵抗が極めて高い材料もあり、適切な工具と切削条件の選定が重要になります。
ステンレス鋼
優れた耐食性を有し、様々な環境下での使用に適しています。オーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系など、様々な種類があり、それぞれの材質によって最適な切断方法が異なります。レーザー切断は高精度・高速切断が可能です。ただし、切断面の状態によっては、研磨などの後処理が必要となる場合があります。ウォータージェット切断は熱影響が少なく、歪みを抑制できます。また、一部のステンレス鋼は、切断時にワークの変色や、切断面の腐食が発生しやすいという特性があるため、加工後の適切な処理が必要です。
耐熱鋼
高温環境下で使用される鋼材で、耐酸化性、耐クリープ性などに優れています。クロム、モリブデン、ニッケルなどの合金元素を高含有しており、切断は困難な場合があります。プラズマアーク切断やウォータージェット切断が用いられますが、切断後の熱処理や、酸化防止のための表面処理が必要となるケースが多く、コストや納期に影響を与える可能性があります。
切断方法の選択
切断方法の選択は、材料特性だけでなく、必要な精度、コスト、生産性、納期などを総合的に考慮して決定する必要があります。
レーザー切断
高精度、高速切断が可能なため、生産性向上に大きく貢献します。しかし、高出力レーザーが必要な厚板加工では、設備投資が高額になります。また、熱影響による歪みも考慮する必要があります。レーザー切断は、薄板から中厚板の切断に適しており、複雑な形状の加工にも対応できます。最新のものでは25mm程度の厚板まで対応可能な機種も登場しています。
ウォータージェット切断
熱影響が少なく、歪みが少ないため、高強度材や複雑な形状の厚板の切断に適しています。ほぼ全ての材料に対応できる汎用性もメリットですが、切断速度が比較的遅いのがデメリットです。
プラズマ切断
厚板の切断に適しており、比較的高い切断速度を実現できます。コストパフォーマンスに優れるため、大量生産に向いています。しかし、切断精度はレーザー切断などに比べて劣る傾向にあります。しかし、最新の機種ではレーザー切断に近い精度が得られるタイプも開発されています。
ワイヤ放電加工(ワイヤEDM)
極めて高い切断精度が求められる場合に用いられます。複雑な形状や極めて薄い切断幅にも対応できますが、切断速度が遅く、コストも高くなります。
工具の選定とメンテナンス:刃物の寿命とコスト
切断工具の選定とメンテナンスは、切断精度、生産性、コストに直結します。
- レーザー切断機: レーザーヘッドの清掃、レンズの交換などの定期的なメンテナンスは必須です。レンズの汚れや劣化は切断精度に直ちに影響を与えます。
- ウォータージェット切断機: ノズルやオリフィスの摩耗は、切断精度と寿命に影響します。定期的な点検と交換が必要です。
- プラズマ切断機: 電極の消耗は切断品質に直結します。消耗状況を常に監視し、適切なタイミングで交換することで、コストと品質のバランスを保ちます。
- 機械切断: 使用する刃物(フライス盤、バンドソーなど)の材質、形状、切削条件(送り速度、切込み量、回転数など)は、切断精度と刃物の寿命に大きく影響します。
切断精度を向上させるための工夫
切断精度を向上させるには、以下の点を考慮する必要があります。
- 材料の予熱・冷却: 熱による歪みを抑制するために、予熱や冷却工程を取り入れることが有効です。
- ジグ・治具の使用: 正確な位置決めと安定した切断を実現するために、適切なジグ・治具を使用します。
- 切断条件の最適化: 材料特性、切断方法、機械性能を考慮し、最適な条件を設定します。
- 機械の精度管理: 機械の定期的な点検・調整は不可欠です。
厚板切断における安全対策
厚板切断作業は、重機や高圧機器を使用する危険を伴う作業です。安全対策の徹底は必須です。
- 安全教育の徹底: 作業員への安全教育を徹底し、安全意識の向上を図ります。
- 防護具の着用: 安全ゴーグル、防塵マスク、防音保護具、耐熱手袋などを着用します。
- 作業手順書の遵守: 作業手順書を厳守し、作業ミスを防止します。
- 緊急停止装置の確認: 緊急停止装置の機能を定期的に確認します。
- 作業環境の整備: 作業場を整理整頓し、危険物を適切に管理します。
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