近年、製造業はコスト削減と生産性向上を常に求められています。厚板加工においても、材料費、加工費、輸送費など、多岐にわたるコストを最適化することは、競争力の強化に直結します。本コラムでは、厚板加工におけるコスト削減術を、鋼材選定から加工方法、生産性向上まで、専門的な視点で解説します。
厚板加工のコスト構造
厚板加工のコストは、材料費、加工費、輸送費、そして、場合によっては熱処理費、検査費、廃材処理費など、多様な要素で構成されています。それぞれの項目におけるコスト削減戦略を理解することは、全体的なコスト低減に繋がります。
材料費
鋼種選定が重要です。高性能鋼材は高価ですが、その特性が要求される場合は妥協できません。しかし、製品の特性を十分に検討し、必要以上の性能を有する鋼材を選択しないことでコストを削減できます。グレードや厚さ、寸法、数量を最適化することで、材料費の大幅な削減が期待できます。
加工費
加工方法は、コストに大きく影響します。レーザー切断、ウォータージェット切断、プラズマ切断、機械切断など、それぞれの加工方法の特性を理解し、最適なものを選択することが重要です。例えば、複雑な形状であれば、ウォータージェット切断が割れや歪みを抑制できるメリットがあります。一方、大量生産の場合は、プラズマ切断や機械切断が、より効率的かつ経済的になる可能性があります。また、加工精度を最適化することで、後工程での修正作業を削減し、加工費を抑制できます。
輸送費
輸送距離や輸送方法によってコストが変動します。近距離であれば、車両輸送が経済的ですが、遠距離であれば、船舶輸送や鉄道輸送がコストを抑える可能性があります。さらに、適切な梱包と運搬方法を選定することで、輸送中の損傷を最小限に抑えることも大切です。
その他
熱処理費、検査費、廃材処理費、人件費なども、コスト構造に含まれます。これらの項目については、適切なプロセス設計、品質管理、人員配置によって削減が可能となります。
最適な鋼材選定によるコスト削減
適切な鋼材選定は、コスト削減に直接的に繋がります。材料の特性を十分に理解し、必要以上の性能を有する鋼材を選択しないことで、無駄なコストを削減できます。
代替鋼材の検討
同じ性能を得られる代替鋼材がないか検討し、価格と性能のバランスがとれた鋼材を選定することで、コストを削減します。
規格鋼材の活用
規格鋼材を活用することで、設計変更によるコスト増を防ぎ、効率的な製造工程を構築できます。
加工方法の選択とコスト比較
厚板加工におけるコスト削減は、材料選定から加工方法、そして生産計画に至るまでの総合的な最適化が鍵となります。各加工法の経済性を考慮し、プロジェクトの特性に最適な戦略を選択する必要があります。
材料特性
鋼種(炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼など)、機械的性質(引張強さ、降伏点、延性など)、熱処理履歴が、切断時の応力集中、熱影響による歪み、切断面粗さなどに影響を与えます。これらが加工法選択に直結します。例えば、高張力鋼は熱影響による割れリスクが高く、低熱入力なウォータージェット切断が有効となります。
切断形状と寸法精度
複雑な形状や高精度が求められる部品は、レーザー切断やワイヤ放電加工が有効な場合があります。一方、単純な形状・大量生産の場合、機械切断の経済性が高まります。寸法公差や表面粗さなどの精度要件も、加工法選択の重要な要素です。
生産数量
少量多品種の場合、柔軟性が高く、様々な加工法に対応できる設備投資が重要となります。一方、大量生産では、材料の厚さや要求精度によって異なりますが、高生産性の加工法、例えばプラズマ切断や多軸マシニングセンタを用いた加工が経済的である傾向があります。
納期急な納期要求の場合は、加工速度が速いプラズマ切断や機械切断が有効な場合があります。しかし、極めて高い精度が求められる場合、加工時間の制約を考慮し、マルチプロセスの組み合わせを検討する必要があります。
設備稼働率
既存設備の能力や稼働状況を考慮し、加工法選択を行う必要があります。設備の空き時間や稼働率、保守点検スケジュールの影響もコストに反映されます。
複数の加工法を組み合わせる「ハイブリッド加工」は、それぞれの加工法の強みを活かし、全体のコストを最適化するための有効な戦略です。例えば、機械切断による粗加工と、レーザー切断による精密加工を組み合わせることで、高精度な製品を効率的かつ経済的に製造できます。
型切り・型抜き・特注鋼材…最適な鋼材選びの3つのポイント
製品設計において、求められる形状や機能を満たす鋼材選定は、開発の成否を左右する重要な要素です。特に、型切り、型抜き、特注といった特殊加工を要する鋼材は、材質、形状、精度、コストなど、考慮すべき点が複雑に絡み合い、最適な選択が難しい場合があります。こちらでは、設計担当者・購買担当者の方々に向けて、型切り鋼材、型抜き鋼材、特注鋼材の選定における3つのポイントを解説し、最適な鋼材選びを支援します。
型切り・型抜き・特注鋼材の種類と選び方
まず、それぞれの鋼材の種類と特性を理解することが重要です。
型切り鋼材
シャーリングマシン、レーザー切断機、ウォータージェット切断機などを用いて、板材から所定の形状に切断された鋼材です。シャーリングマシンは主に直線切断に用いられ、複雑な形状の切断にはレーザーやウォータージェットが用いられます。比較的単純な形状から複雑な形状まで対応でき、少量生産から大量生産まで対応可能です。材料としては、一般鋼材(SS400、S25C、S45Cなど)、ステンレス鋼(SUS304、SUS316、SUS430など)、アルミ材(A1050、A5052など)が使用されます。板厚や材質により、切断可能な板厚や精度が決定されます。
型抜き鋼材
プレス加工によって金型を用いて打ち抜かれた鋼材です。複雑な形状の加工が可能で、高い寸法精度を実現できます。金型製作費は高額になりますが、大量生産に非常に適しており、単価を抑えることができます。自動車部品、電子部品など、様々な製品に使用されます。材料としては、冷間圧延鋼板(SPCC、SPCDなど)、ステンレス鋼板(SUS304、SUS301など)、表面処理鋼板(電気亜鉛めっき鋼板など)が用いられます。材料の硬さや延性、板厚が、抜き加工の可否や金型寿命に影響を与えます。
特注鋼材
上記の型切りや型抜きでは対応できない、特殊な形状や寸法、材質、特殊な熱処理や表面処理が施された鋼材です。顧客のニーズに合わせてオーダーメイドで製造されるため、柔軟な対応が可能です。例えば、高強度で耐熱性も求められるような特殊な用途には、ニッケル基合金やチタン合金といった特殊鋼が適用されます。これらは高度な熱処理技術や表面処理技術を組み合わせることで、要求される特性を実現します。
鋼材選定においては、以下の点を考慮する必要があります。
必要な形状・寸法・公差
設計図面に基づき、必要な形状・寸法・公差を明確に定義します。実現可能な精度や表面粗さは、加工方法によって制約を受けるため、事前に確認が必要です。
材料特性(機械的性質・物理的性質・化学的組成)
強度、硬度、耐食性、耐熱性、延性、導電性、磁性など、必要な材料特性を考慮します。それぞれの特性は、材料の化学組成、熱処理条件、加工条件などに影響を受けます。
コスト
材料費、加工費、金型費(型抜き加工の場合)、熱処理費、表面処理費、検査費、輸送費など、全体的なコストを考慮し、最適なバランスを見つけます。数量や納期によっても変動するため、複数の業者から見積もりを取得し比較検討することが重要です。
納期
必要な納期を満たせるかを確認し、各工程のリードタイムを考慮した上で、余裕を持ったスケジュールを立案します。
鋼材加工の方法・コスト・精度
鋼材加工には様々な方法があり、それぞれにコスト、精度、加工可能な材質・板厚が異なります。
レーザー切断
高精度、高速加工が可能ですが、設備投資費用が高額になる傾向があり、加工可能な板厚には制限があります。CO2レーザー、ファイバーレーザー、YAGレーザーなど、レーザーの種類によっても特性や適用範囲が異なります。
ウォータージェット切断
熱影響が少なく、ほとんどの材料を切断できますが、加工速度が比較的遅く、ランニングコストが高価な場合があります。研磨材を使うか否かで切断可能な材質や精度が変わります。
プラズマ切断
厚板の切断に適しており、高速切断が可能ですが、切断面が粗く、精度が低い場合があります。プラズマガスや電流値を調整することで、切断特性を制御します。
タレパン加工
金型を用いて打ち抜く加工方法で、複雑な形状にも対応できますが、初期投資費用が高額で、金型の設計・製作期間が必要です。
シャーリング切断
鋼板を直線状に切断する加工方法で、比較的低コストですが、複雑な形状には対応できません。
加工方法の選択は、必要な精度、形状の複雑さ、生産数量、そして予算を考慮して決定する必要があります。
型切鋼材はホウキンにお任せください
株式会社ホウキンは、70年以上にわたり、愛知県を中心としたお客様の材料調達から加工までをワンストップでサポートしてきた鋼材商社です。一般鋼材、ステンレス、特殊鋼(高強度鋼、耐熱鋼、耐摩耗鋼、ステンレス鋼、工具鋼など)、磨棒鋼、非鉄金属など、幅広い材料を取り扱っており、シャーリング切断、プラズマ切断、レーザー切断、穴あけ、曲げ加工、条鋼類切断など、様々な加工に対応可能です。「間に合う」をモットーに、お客様のニーズに最適な鋼材選定、加工方法の提案、そして高精度な加工を実現します。材料調達から加工に関するお困りごとがございましたら、お気軽に株式会社ホウキンまでお問い合わせください。